男性の育児休暇について日本では賛否両論ありますが、フランスでは、2021年7月より2週間の「父親休暇」を4週間に倍増し、うち1週間の父親休暇は義務になります。これは父親になるための短期集中合宿的な意味合いがあり、男女平等に仕事や家庭の責任を果たすための施策です。
一方、日本に目を向けると、男性の育児休業取得率は6.16%(平成30年度調査)ほどです。近年、共働きが当たり前になったことで、男性の育児休暇取得も徐々に増えつつありますが、利用するのはごく一部の人に限られているのが現状です。
この記事では日本の男性の育児休業取得率が増えない背景とその対策について解説します。
取得率は1割以下!「男性の育児休業取得」は当たり前になるか
日本では男性・女性問わず、育児・介護休業法第24条第1項に基づく「育児休業」が認められています。しかし、厚生労働省のデータ(※1)によると、男性の育児休業取得率は、平成8年では0.12%でしたが、平成30年度では6.16%と低い水準ながらも上昇傾向にあることがわかります。
しかし、世界に目を向けると、男性の育児休業取得率(※2)は、イギリス12%、ドイツ18.5%、オランダ18%、スウェーデン78%、ノルウェー89%と、各国の育児休暇制度や取得期間には違いがあるので、一概には比較できませんが、日本と世界とでは大きく差が開いています。
政府は2030年までに男性の育児休業取得率30%を目標にかかげており、厚生労働省では男性の育児休業義務化の検討(※3)が始まっています。しかしながら、商工会議所が6,007社の中小企業を対象として行った「多様な人材の活躍に関する調査」によると、「男性社員の育児休業取得の義務化」について「反対」と回答した企業の割合が70.9%に達しました。(※4)
なぜ、7割もの企業が反対しているのでしょうか?男性の育児休業取得が進まない従業員側の主な要因に以下のようなものがあります。
・そもそも会社に育児休業制度がない
・育児休業制度はあるが、男性が取得しにくい雰囲気
・収入の減少
・人事評価への悪影響
・周囲に迷惑をかけてしまう(業務量増加、人員補充なしなど)
・復職後のポジションや居場所はあるのかといった不安
特に、管理職の不在の間を埋め合わせることは大変なため、男性管理職はとりわけ育児休業が取りにくくなっています。育児休業中の管理職の仕事は、主にその下の副ポジションの人、またはその管理職の並列部署の同等のポジションの人が代わりに回していくことがほとんどです。代わりの管理職を立てずに部下が手分けをして仕事をすることもあるでしょうか、承認したり責任をとるポジションの人間は必要になります。
どうしても管理職の変わりが立てられない場合は、一時的に管理職を外注で雇うことも可能ですが、適切な人材が探してすぐに見つかるかという問題があります。部門ごとアウトソースすることも考えられますが、業務の切り分けや移行に準備や時間がかかるので判断が難しく、取得しない管理職のほうが多いのが現状です。
国や法律で制度が整っている場合でも、このような背景から特に中小企業の男性育児休業取が進んでいません。特に日本では和を重んじるため、これらの目に見えない課題を解決しないと、男性の育児休業取得は当たり前になっていかないでしょう。
実は日本の育休制度は充実!男性の育児休業の期間は?収入は?
では、企業企業として、男性の育児休業の仕組みや育児休業の取得を促す制度には、どうしたらいいのでしょうか?
日本では、育児休業の期間は、1歳になるまでの子どもを育てていて、子どもが1歳に達する日(厳密には誕生日の前日)までの希望する期間と定められており、男女ともに認められている制度なので、男性でも取得することができます。
男性の育児休業を推進する「パパ休暇」「パパ/ママ育休プラス」制度
両親が協力して育児できるよう2010年から、「パパ休暇」の制度も設けられました。「パパ休暇」では、育児休業の取得回数は原則一人の子どもにつき1回ですが、父親は配偶者の産後8週間以内に育児休業を取得すると、特別な事情がなくても期間内にもう1回育児休業を取得することができるようになります。
また、父親と母親が一緒に育児休業を取得する場合は、原則「子どもが1歳(誕生日の前日)に達する日」までとする育児休業期間が、「子どもが1歳2か月に達する日」まで延長できる「パパ/ママ育休プラス」制度もあります。両親が協力しあって、一緒にまたは交代しながらお休みをとり、子どもが1歳2か月になる間にお互い最大1年間の育児休業を取得することを促進している制度です。
〈「パパ/ママ育休プラス」制度の注意点〉
「パパ/ママ育休プラス」制度(※5)によって、2カ月ほど、取得できる期間が延長されますが、厳密には、父親と母親がそれぞれ取得できる休業期間は最大1年間というのは変わりません。詳しくは、お住いの「都道府県労働局雇用環境・均等部(室)」にて問い合わせください。
「パパ/ママ育休プラス」制度を利用した場合、要件を満たせば、普通の育児休業給付金と変わらず給付金が支給されます。
育児休業中の収入は?
「育児休業給付」は会社から給与が支払われていないことが条件となり、給付額は、育児休暇前の賃金月額の67%相当額が支給され、6か月以降は50%相当額となります。
例えば育児休業前の給与が月額200,000円だった場合、取得後半年間は67%相当の134,000円が毎月支給されます。その後、半年間は50%相当の100,000円が毎月支給され、取得後1年を過ぎると無給となります。(※6)
育児休業中でも働くことはできますが、支払われた賃金の割合によって育児休業給付金は変動します。
(1)支払われた賃金が育児休業開始時の賃金月額の13%未満の場合
「賃金が支払われていない」として通常通りの給付金額が支給されます。
(2)支払われた賃金が育児休業開始時の賃金月額の13%以上80%未満の場合、育児休業開始時の賃金月額の80%相当額と、実際に支払われた賃金の差額分が支給されます。
(3)支払われた賃金が育児休業開始時の賃金月額の80%以上の場合、育児休業給付金の支給はありません。
また、育児休業支給金額には上限があり、休業開始から半年までは305,721円、その後は228,150円が支給上限額となります。(※7)
復帰後のポジションは復職前の内容と同等にすることが原則ですが、必ずしもこの通りでないといけないという法律はなく、会社の判断に委ねられます。ただし、会社は育児休業から復帰した従業員に対して、勤務時間や場所、仕事内容など、子育てしながらでも働きやすい環境を整えてあげることが必要です。
男性の育児休業は企業にとってデメリットか
このように男性の育児休業制度はあっても、人手不足や男性の育児参加への偏見等もあり、実際の利用率は低い現状があります。男性の育児休業を促進すると、企業はデメリットしかないのでしょうか?
(1) 従業員の生産性の向上
引き継ぎがスムーズにいくよう、また、限られた人員で業務を遂行するために、ムダな作業を減らすきっかけができ、生産性の向上に役立ちます。また、育児休業を取得するとワークライフバランスを意識するようになるため、残業を減らす工夫をし、作業効率が上がるようになり、結果として生産性の向上につながります。
(2) 従業員の定着率向上
男性の育児休暇取得に対する理解がある企業は、従業員にとって働きやすい環境となり、離職率の改善や人材確保に有効です。また、従業員満足度が高まることで、業務に対するモチベーション維持にも役立ちます。
(3) 企業イメージの向上
男性の育児休業がまだまだ浸透しないなか、“育児休業を取得した男性社員が多い”という実績は、企業のイメージアップにつながり、社会的な認知や企業のビジョンが認知されやすくなります。それにより従業員エンゲージメントが高まり、長期的な視点で見ると業績向上にも良い影響をもたらす好循環が生まれます。
(4) 助成金を受け取ることができる。
男性従業員が育児休業を取得しやすい風土作りに取り組み、それによって育児休業を取得した会社を対象に「両立支援等助成金 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」という給付金を男性従業員一人あたり57万円(支給対象者数は1年度あたり10人まで)もらうことができます。(※8)
その助成金をアウトソーシングや人員補充の費用に充てることができます。また、助成金申請にあたり、計画書の策定や社内での研修、男性の育児休業制度の利用促進を促す資料配布などの要件が定められていますが、それによって社内全体に周知・理解を深めるきっかけにもなるでしょう。
また、育児休業中の従業員の社会保険料が免除されるため、企業にとっても経費を軽減することができます。
男性の育児休業を積極的に行っている企業事例
最後に、育児休業取得を積極的に推進している企業でプラスの効果が出ている企業例を紹介します。
株式会社コーソル(従業員数133名/2019年11月時点)
データベースの設計や導入を行う株式会社コーソルでは、育児休業の取得率向上のため、以下の取り込みを実施。2013年度まで男性の育児休業取得率は0%でしたが、2016年・2017年は100%を達成、2018年は63%と大きく改善し、厚生労働省が主催する『イクメン企業アワード2019』において、グランプリを受賞しています。
<育休取得推進にあたって取り組んだこと>
・社内向けの「育休セミナー」や「イクメン座談会」において、育児休業を取得した男性が育休制度の説明や体験談を語り、男性向けのアプローチを充実
・小学校を卒業するまでの間、育児により制限された勤務時間分の賃金の50%を補填する「育児支援手当」を導入
・育児、介護、傷病等の事情がある社員を対象に在宅勤務制度を導入(※9)
従業員との直接対話から、育児休業取得の積極的な推進や時短勤務制度、育児支援手当等の制度が導入されました。また、単に制度を設けただけでなく、労務管理システムやイクメン座談会やセミナー、サテライトオフィスを導入など、働きやすい仕組みも合わせて取り入れています。
その結果、離職率の減少や生産性の向上、男性の仕事と家庭の両立に対する理解が深まるといったプラスの効果が出ています。
まとめ
まだまだ、「家庭は女性が守るもの、男性は仕事をするもの」という概念が大きく定着しているため、男性の育児休業制度を広く推進していくためには、企業の受け入れる風土づくりと、社員のための制度作りが必要です。
男性でも育児は不安やストレスがつきものですので、男性社員同士のコミュニケーションの場を積極的に作ったり、相談体制を整えるなどフォローを行っていくと良いでしょう。
<参考資料>
※1 男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について/厚生労働省
※2 ケース別にみた育児休業制度の取得しやすさ/厚生労働省
※3 男性の育休 取得しやすい環境づくりへ検討始まる 厚労省/NHK
※4 「多様な人材の活躍に関する調査」/日本・東京商工会議所
※5 両親で育児休業を取得しましょう!/厚生労働省
※6 Q&A~育児休業給付~/厚生労働省
※7 高年齢雇用継続給付 育児休業給付 介護休業給付の受給者の皆さまへ/厚生労働省
※8 イクメン企業アワード 2019 両立支援部門 受賞企業の取組概要/厚生労働省