「人手不足による倒産」が深刻な社会問題となっています。人材確保と定着には、給与水準の引き上げが効果的な対策とされていますが、多くの中小企業では賃上げが進んでいないのが実情です。この記事では、人手不足倒産の実態と、中小企業が賃上げに踏み切れない背景を分析し、賃上げ以外の効果的な対策について紹介します。
人手不足倒産件数が過去最高を記録
株式会社帝国データバンクは、2024年10月4日「人手不足倒産の動向調査(2024 年度上半期)」を公開しました。この調査結果から、人手不足を原因とする倒産件数の実態と深刻度が明らかになりました。
人手不足倒産が過去最多を更新
出典:株式会社 帝国データバンク[TDB]|人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)|(2024年10月4日)
「人手不足倒産の動向調査(2024年度上半期)」によると、2024年度上半期(4-9月)の人手不足倒産件数は163件に達しました。これは、年度ベースで過去最多を記録した2023年度(313件)をさらに上回るペースです。
業種で見ると「建築」「物流」が突出し、この2業種で約半数となる45.4%を占めています。これは、2024年4月に完全施行された時間外労働の上限規制適用、いわゆる「2024年問題」が大きく影響しているものと推察されます。
企業規模では、10人未満の事業所が82.2%と、小規模事業者が大半を占める結果となりました。
関連記事:2024年問題で労働時間はどう変わる?解決策をわかりやすく解説
中小企業における人手不足の深刻度
出典:日本商工会議所・東京商工会議所|「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」
日本商工会議所・東京商工会議所が、全国2,392社の中小企業を対象に行った調査では、全体の63.0%の中小企業が人手について「不足している」と回答しました。過去2年と比較すると改善傾向にはありますが、依然として半数を大きく超えています。
さらにその深刻度について尋ねると「非常に深刻(事業運営に深刻な影響があり、廃業のおそれがある)」(4.2%)・「深刻(事業運営に影響があり、今後の事業継続に支障が出るおそれがある)」(61.3%)と、6割以上の企業が事業継続への重大な懸念を示しています。
中小企業の人手不足は、各企業のみならず、日本経済全体においても喫緊の課題といえそうです。
中小企業の賃上げの実情
人手不足に悩む企業は、まず賃上げを検討するのが一般的です。それにもかかわらず、中小企業の多くは賃上げに踏み切れていません。
連合が公開した2024年春闘の最終集計によると、組合員数300人未満の3,816社における組合員数と平均賃上げ額との関係は以下の通りです。
組合員数 | 定期昇給込み賃上げ計 | |
平均賃上げ額 | 平均賃上げ率 | |
〜99人 | 9,626円 | 3.98% |
100〜299人 | 12,004円 | 4.62% |
300人未満計 | 11,358円 | 4.45% |
組合員数300人未満の企業における平均賃上げ率は4.45%でした。組合員数300人以上の企業における平均賃上げ額15,874 円・平均賃上げ率5.19%と比較すると、大きな差があることがわかります。
また、経団連の「2024年春季労使交渉・中小企業業種別回答状況[了承・妥結含](加重平均)」では、中小企業(従業員数500人未満)の平均賃上げ率は3.92%です。大企業の5.58%とは1.66ポイントもの開きがあります。
中小企業の賃上げを妨げる5つの要因
大企業と比べ、中小企業の賃上げが進まない背景とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、中小企業の賃上げが進まない理由を五つの角度から解説します。
価格への転嫁が困難
帝国データバンクが実施した価格転嫁に関する実態調査によると、2024年2・7月の両調査において、コストの上昇分を販売価格に完全に転嫁できている企業はわずか2.5%に留まっています。また、まったく価格転嫁できていない企業も6.6%存在します。
取引先との力関係により、価格転嫁が難しい中小企業の場合、この傾向はさらに顕著です。中小企業の多くは、コスト上昇分を自社で負担せざるを得ません。この結果、従業員への賃上げに必要な原資が削られ、賃上げに踏み切れない状況が続いてしまうのです。
参考:株式会社 帝国データバンク[TDB]|価格転嫁に関する実態調査-価格転嫁の状況分析(2024 年 2 月・7 月比較)ー(2024年9月26日)
原材料費・エネルギー費の高騰
出典:東京商工リサーチ|~2024年度「賃上げに関するアンケート」調査~
東京商工リサーチは、2024年2月に「賃上げに関するアンケート」を公開しました。同調査において「賃上げを実施しない」と回答した企業に対し、その理由を尋ねたところ「コスト増加分を十分に価格転嫁できていないため」がもっとも多く「原材料価格・電気代・燃料費などが高騰しているため」が続く結果となりました。
光熱費の上昇は、事業所の維持管理費用にも関係します。特に、空調設備や冷蔵設備など、エネルギー消費の大きい設備を有する企業では、その影響が大きくなりがちです。
これらのコスト増は、企業から賃上げの余力を奪う直接的な要因となっています。
非正規雇用の従業員の増加
政府の女性活躍推進や高齢者の就業促進策により、パートタイム労働者やアルバイトなどの非正規雇用が増加しました。これらの労働者は、正規雇用の従業員と比較して低い賃金水準で就労することが多く、結果として賃金水準を押し下げる効果をもたらしています。
特に中小企業では、人件費の抑制を目的として非正規雇用の従業員の割合を増やす傾向にあります。短時間勤務や柔軟な勤務形態を希望する労働者のニーズと、コスト削減を目指す企業の思惑が一致した結果、賃金水準の上昇が抑制される構造が定着してしまっているのが実情です。
採用・教育コストの増加
中小企業の賃上げを妨げる要因のひとつに、人材確保のための採用コストがあります。
人手不足が社会問題となる中、企業が新たに人材を獲得するにあたっては、求人広告費の増加に加えて採用時の給与水準の引き上げも必要です。特に、即戦力となる人材の採用では、市場相場を上回る給与を提示せざるを得ないケースも増えています。
また、業務のデジタル化やコンプライアンスの強化により、採用後の教育研修にかかるコストも上昇しています。その結果、一人前の戦力として活躍できるようになるまでの期間が長期化傾向にあり、その間の人件費負担が企業にとって大きな課題となっているのです。
資金調達面の難しさ
一般的に、中小企業は大企業と比べて資金調達の選択肢が限られています。金融機関からの借入れでも、相対的に高い金利を求められることが多く、設備投資や運転資金の確保に苦慮するケースが少なくありません。
こうした事情から、必要な資金を調達できず、賃上げの実施を見送らざるを得ないケースも発生しています。
また、事業規模が小さい企業ほど、担保となる資産も限られるために資金調達が困難です。そのため、賃上げをはじめとする従業員の待遇向上を図る余裕が生まれにくい傾向にあります。
関連記事:中小企業の賃上げができない原因と解決策|助成金と福利厚生をチェック
賃上げしない中小企業に効果的な代替策「福利厚生」
人手不足解消を目指しつつも、思い切った賃上げが難しい中小企業の中で、注目を集めているのが「賃上げの代替策としての福利厚生」です。
一定の条件を満たした福利厚生は、経費として計上できるため、企業の法人税を削減する効果があります。また、従業員の所得税にも影響しないため、賃金として支給するよりも従業員の実質的な手取りを増やせます。これは、財務リソースに課題を抱えがちな中小企業にとって大きなメリットです。
福利厚生のメリットは、金銭面だけではありません。以下、福利厚生を充実させることで企業が得られるその他の主なメリットを紹介します。
- 人材の獲得・定着:充実した福利厚生は、採用市場において強力な武器になります
- 従業員のモチベーション向上:働きやすい環境が整うことで、従業員の意欲が高まります
- 生産性・業績向上:従業員のパフォーマンスが向上することで、生産性・業績の向上が期待できます
- 企業価値の向上:「従業員を大切にする企業」として評価が高まり、企業価値が向上します
全国25万店以上で食事が半額に「チケットレストラン」
数ある福利厚生の中でも、近年特に注目度を高めているのが、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。
「チケットレストラン」は、一定の利用条件を満たすことで、全国25万店舗以上の加盟店での食事代が半額になる食事補助の福利厚生サービスです。勤務時間内であれば、利用する場所やタイミングに制限がないため、勤務形態も問いません。内勤・外勤はもちろん、リモートワーク中や出張中の従業員も平等にメリットを提供できます。
また、運用に必要なのは月に1度のチャージのみで、少額から利用可能です。人員や資金のリソースに課題を抱える中小企業でも無理なく導入できる福利厚生として、すでに3,000社を超える企業に導入されています。
関連記事:チケットレストランの魅力を徹底解説!ランチ費用の負担軽減◎賃上げ支援も
賃上げしない中小企業でも人手不足解消は可能
人手不足倒産が過去最高を更新する中、多くの中小企業が賃上げ実施に苦慮しているのが実情です。その背景には、価格転嫁の難しさ、原材料費・エネルギー費の高騰、非正規従業員の増加、採用・教育コストの増加、資金調達の難しさという5つの要因があります。
しかし、たとえ賃上げが困難でも、企業が取れる施策はあります。たとえば「チケットレストラン」のような食事補助の福利厚生サービスの提供は、税制メリットを活用しながら従業員の実質的な処遇改善が図れる効果的な選択肢です。
自社の実情に合わせた施策を検討し、人材の確保・定着を目指しましょう。