シニア人材の賃上げが進んでいます。少子高齢化による人手不足へ対応するには、シニア人材の活用が有効です。改正高年齢者雇用安定法により65歳までの雇用確保が義務づけられる中、シニア人材の賃上げにはどのようなメリットがあるのでしょうか?現状を踏まえた上で見ていきましょう。
シニア人材活用の流れ
少子高齢化の進行により15~64歳の生産年齢人口は減少しています。減少の流れが今後も続くと考えられている中、人手不足の解消に向けてシニア人材の活用に注目が集まっています。
日本政策金融公庫の「調査月報2022年10月号」によると、人材確保のための方策として「再雇用などシニア人材の活用」をあげた企業は34.5%でした。自社で働き続けており、スキルも経験もある人材に、長く働き続けてほしいと考える企業が多くあると分かります。
関連記事:シニア再雇用の現状と課題。シニアの雇用を促す助成金についても解説
シニア人材の活用を義務づける改正高年齢者雇用安定法
2021年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行されています。
この法律により、企業には65歳までの雇用確保が義務づけられました。加えて以下にあげる1~3の就業確保措置、もしくは4・5の創業支援措置のうち、いずれかの高年齢者就業確保措置を実施することが努力義務となっています。
- 70歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度の導入
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
参考:厚生労働省|改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月から施行されました
65歳までの雇用確保を義務づける「高年齢者雇用確保措置」の実施状況
厚生労働省の「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します」によると、65歳までを対象とする高年齢者雇用確保措置を実施している企業は23万6,815社です。
高年齢者雇用確保措置には「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」があり、いずれかの実施が義務づけられています。3つの措置について、実施している企業の内訳を見ていきましょう。
企業規模 |
定年制の廃止 |
定年の引き上げ |
継続雇用制度の導入 |
従業員301人以上 |
0.7% |
17.4% |
81.9% |
従業員21~300人 |
4.2% |
27.7% |
68.2% |
全企業 |
3.9% |
26.9% |
69.2% |
多くの企業は「継続雇用制度(再雇用)」によって、高年齢者雇用確保措置を講じていると分かります。
参考:厚生労働省|令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します
70歳までの雇用確保の努力義務「高年齢者就業確保措置」の実施状況
同じく厚生労働省の「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します」によると、改正高年齢者雇用安定法で努力義務となっている、70歳までの高年齢者就業確保措置に取り組んでいる企業は7万443社です。
取り組んでいる措置の内訳を見ていきましょう。
企業規模 |
定年制の廃止 |
定年の引き上げ |
継続雇用制度の導入 |
創業支援等措置の導入 |
301人以上 |
0.7% |
0.6% |
21.3% |
0.2% |
21~300人 |
4.2% |
2.4% |
23.7% |
0.1% |
全企業 |
3.9% |
2.3% |
23.5% |
0.1 |
70歳までの高年齢者就業確保措置も、65歳までの高年齢者雇用確保措置と同様で「継続雇用制度(再雇用)」を実施している割合が高くなっています。
参考:厚生労働省|令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します
再雇用後の職務内容と給与
再雇用したシニア人材には、どのような仕事をいくらで任せているケースが多いのでしょうか。日本経済団体連合会の「2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」をもとに見ていきましょう。
参考:日本経済団体連合会|2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果
シニア人材の職務内容
日本経済団体連合会の「2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によると、シニア人材の再雇用後の職務内容は、60~64歳も65歳以降も、以前と同じ職種を役割や範囲などを縮小して任せるケースが過半数となっています。
再雇用後の職務内容 |
60~64歳 |
65歳以降 |
以前と同じ職務(役割や範囲等の変更なし) |
24.0% |
23.9% |
以前と同じ職種(役割や範囲等を縮小) |
62.5% |
57.5% |
以前と異なる職務(以前の職務と関連性がある職務) |
6.6% |
8.0% |
以前と異なる職務(以前の職務と関連性がない職務) |
0.0% |
0.0% |
その他 |
6.9% |
10.6% |
これまでの経験を生かせる職務で、知識やスキルを発揮してほしいと考える企業が多い結果といえるでしょう。
シニア人材の給与・賞与
日本経済団体連合会の「2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」で、再雇用後のシニア人材の待遇についても見ていきましょう。
基本給に関する調査では、再雇用前と異なる賃金制度を適用し、個別に決定した水準に下げるケースが最も多くなっています。
再雇用後の基本給 |
60~64歳 |
65歳以降 |
以前と同じ賃金制度で水準も変わらない |
11.1% |
21.1% |
以前と同じ賃金制度で一律に水準を下げる |
11.1% |
2.7% |
以前と同じ賃金制度で個別に決定し水準を下げる |
8.1% |
9.4% |
以前と異なる賃金制度で一律に水準を下げる |
25.2% |
14.3% |
以前と異なる賃金制度で個別に決定し水準を下げる |
37.8% |
38.6% |
その他 |
6.6% |
13.9% |
賞与・一時金の水準についても見ていきましょう。
再雇用後の賞与・一時金 |
60~64歳 |
65歳以降 |
以前と同じ賞与・一時金制度で水準も変わらない |
14.6% |
18.8% |
以前と同じ賞与・一時金制度で一律に水準を下げる |
12.8% |
4.1% |
以前と同じ賞与・一時金制度で個別に決定し水準を下げる |
7.3% |
7.3% |
以前と異なる賞与・一時金制度で一律に水準を下げる |
25.8% |
12.8% |
以前と異なる賞与・一時金制度で個別に決定し水準を下げる |
24.9% |
22.0% |
賞与・一時金は支給しない |
9.7% |
22.5% |
その他 |
4.9% |
12.4% |
賞与・一時金は、以前と異なる制度で水準を下げて支給するケースが比較的多めです。ただし65歳以降は賞与・一時金を支給しないケースの割合も多くなっています。
シニア人材の賃上げの現状
シニア人材の活用が進む中、再雇用したシニア人材の待遇改善を行う企業が出てきています。給与を現役並みにしたり、引き上げたりしている企業の一例は以下の通りです。
企業名 |
再雇用者向けの待遇改善 |
日本精工 |
8,000円のベースアップ |
GSユアサ |
1万4,000円のベースアップ |
スズキ |
基本給を現役並みに引き上げ |
カルビー |
高度人材は定年時処遇を引き継ぎ再雇用 |
伊藤忠テクノソリューションズ |
高度専門職の従業員は現役世代と同等の給与 |
人手不足の解消を目的にシニア人材を再雇用しても、働き方は同じなのに給与が下がる状態では、モチベーションを維持しにくくなってしまいます。期待している成果が出るよう、シニア人材の賃上げに取り組む企業が増加中です。
物価上昇の影響から生活費の負担が増えていることも、シニア人材の賃上げが必要な要因といえます。
シニア人材の賃上げに取り組むメリット
シニア人材の賃上げを行う企業が増えているのは、「働くモチベーションにつながる」「人手不足の解消につながる」「ベテランのスキルや経験を活用できる」などが理由です。それぞれのメリットを見ていきましょう。
働くモチベーションにつながる
定年退職後に再雇用され働くとき、これまでと同じ仕事をしているにもかかわらず、再雇用を理由に給与が大きく下がれば、シニア人材はモチベーションを維持しにくくなります。
他に待遇のよい職場が見つかったり、より高い報酬を得るために独立したりすることもあるでしょう。シニア人材が働き続けたいと感じる職場にするには、賃上げによる待遇改善が役立ちます。
人手不足の解消につながる
賃上げを行い待遇が改善すれば、定年退職後に再雇用で働き続ける従業員が増えるかもしれません。これまでより働き続ける従業員が増えれば、人手不足を解消できる可能性があります。
ベテランのスキルや経験を活用できる
シニア人材は自社の事業に精通し、豊富な知識や経験を持っています。ベテランの知見を生かすことで、自社の事業をスムーズに運営しやすくなることも期待できるでしょう。
ベテランが定年退職後も再雇用として働き続ければ、スキルや技術を若手従業員へ引き継ぐ時間も取りやすくなります。
シニア人材の活用に利用できる65歳超雇用推進助成金
シニア人材の活用は人手不足対策として注目されていますが、実施するには人件費の確保が必要です。基本給の現役並みの引き上げや、賃上げなどを実施するには、さらにコストがかかります。
このコストの補助に利用できるのが65歳超雇用推進助成金です。「65歳超継続雇用促進コース」「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」「高年齢者無期雇用転換コース」の3つのコースについて、支給要件や支給額をチェックしましょう。
65歳超継続雇用促進コース
65歳超継続雇用促進コースでは「65歳以上への定年の引き上げ」「希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入」「定年制度の廃止」「他社による継続雇用制度の導入」のいずれかを行うと、以下の助成金を受給できます。
<65歳以上への定年の引き上げ・定年制度の廃止>
60歳以上の被保険者数 |
65歳への定年引き上げ |
66~69歳への定年引き上げ(5歳未満) |
66~60歳への定年引き上げ(5歳以上) |
70歳への定年引き上げ |
定年制度の廃止 |
1~3人 |
15万円 |
20万円 |
30万円 |
30万円 |
40万円 |
4~6人 |
20万円 |
25万円 |
50万円 |
50万円 |
80万円 |
7~9人 |
25万円 |
30万円 |
85万円 |
85万円 |
120万円 |
10人以上 |
30万円 |
35万円 |
105万円 |
105万円 |
160万円 |
<希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入>
60歳以上の被保険者数 |
66~69歳への継続雇用の引き上げ |
70歳以上への継続雇用の引き上げ |
1~3人 |
15万円 |
30万円 |
4~6人 |
25万円 |
50万円 |
7~9人 |
40万円 |
80万円 |
10人以上 |
60万円 |
100万円 |
<他社による継続雇用制度の導入>
66~69歳への継続雇用の引き上げ |
70歳以上への継続雇用の引き上げ |
|
支給額(上限額) |
10万円 |
15万円 |
参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構|65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)は、シニア人材の雇用推進に向けて、給与制度・人事制度・労働時間・健康管理制度などを整えたときに利用できる助成金です。専門家への委託費や機器・システムの購入費用などの支給対象経費に60%をかけた金額が支給されます。
参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構|65歳超雇用推進助成金(高年齢者評価制度等雇用管理改善コース)
高年齢者無期雇用転換コース
65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)は、50歳以上で定年年齢に達していない有期契約の従業員を、無期雇用に転換させたときに利用できる助成金です。無期雇用転換計画の認定を受け、計画を実施すると助成金を受給できます。
支給額は対象となる従業員1人あたり30万円です。1適用事業所が申請できる上限は、1支給申請年度につき10人までと定められています。
参考:高齢・障害・求職者雇用支援機構|65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)
シニア人材を活用するために必要な配慮
シニア人材の活用を考えるときには、賃上げ以外にも配慮すべき点があります。具体的なポイントを見ていきましょう。
働き方の柔軟性を確保する
シニア人材の中には体力面や家庭の事情などでフルタイムの勤務が難しい人もいます。そのようなケースでも無理なく働けるよう、時短勤務や在宅勤務の制度を導入するとよいでしょう。
通院や家族の看護などに利用できる休暇制度を設け、実際に取得できるよう促すことも働き方の柔軟性確保につながります。
シニア人材に限らず全ての従業員に適用することで、誰もが働きやすい職場づくりが可能です。
設備を改善する
加齢に伴う体力の低下に対応するため、職場の設備の改善も必要です。つまずきやすい段差をなくしたり、階段に手すりをつけたり、バリアフリーを進めましょう。
体力的な負荷を減らしたり、作業量を調節したりしやすいよう、作業工程や作業量・作業内容などを見直すのもポイントです。
健康を気遣う
シニア人材が働き続けるには、健康管理が欠かせません。従業員の健康を経営の観点で捉え投資する、健康経営を意識するとよいでしょう。
健康状態を毎日報告するようにしたり、定期的な健康診断の受診を促したり、食事補助を提供したりするのがおすすめです。
シニア人材の活用に役立つ「チケットレストラン」
人手不足解消のためにシニア人材を活用するときには、健康経営に取り組むとよいでしょう。そこで役立つのがエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。食事補助の福利厚生サービスについて見ていきましょう。
従業員の健康に役立つ
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を導入すると、支給対象の従業員が食事補助の福利厚生サービスを利用できます。仕事中の食事を購入するときに使える予算が増えることで、栄養バランスを考えた食事を心がけるきっかけになるでしょう。
関連記事:【健康経営のメリット・デメリット】なぜ必要か?取り組み方も解説
待遇改善に役立つ
シニア人材の待遇改善を目的に、エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」を導入してもよいでしょう。
福利厚生の中でも食事補助や社宅などは、一定の要件を満たすと支給しても従業員の税負担が増えません。同額の賃上げを行うときと比べると、税額が増えない分、実質的な手取り額を増やせます。
賃上げと同時に「チケットレストラン」を導入することで待遇改善が可能です。
関連記事:“福利厚生”で実質手取りアップと高いエンゲージメントの実現を「#第3の賃上げアクション」プロジェクト
さまざまな勤務体系の従業員に平等に支給できる
エデンレッドジャパンの「チケットレストラン」は全国にある25万店舗以上の加盟店で利用できるため、さまざまな勤務体系の従業員が平等に利用できます。
時短勤務やテレワークなどで柔軟性のある働き方をしている従業員はもちろん、オフィスへ出社している従業員や、客先へ常駐している従業員も利用可能です。
シニア人材の活用には賃上げとともに「チケットレストラン」の導入を
人手不足を解消するためにシニア人材を活用するケースが広まっています。ただし定年退職後の再雇用は契約社員やパートになるケースが多く、これまでと同じ働きをしていても給与が下がりモチベーションの低下につながっていました。
より多くのシニア世代が活躍できるよう、シニア人材の賃上げの動きが出てきています。このとき賃上げとともに、要件を満たすと従業員の税額が非課税となる福利厚生の導入も検討するとよいでしょう。
おすすめは食事補助の福利厚生サービスであるエデンレッドジャパンの「チケットレストラン」です。従業員の健康的な食事のサポートにもつながります。